アクアフォトミクスを用いた浄水システムの浄化段階のモニタリング

※本ページは2020年に発表された論文「Aquaphotomics approach for monitoring different steps of purification process in water treatment systems」の日本語要約です。翻訳は岩井理路によるものです。

Note: This page is a Japanese summary of the paper “Aquaphotomics approach for monitoring different steps of purification process in water treatment systems” published in 2020. The translation is written by Masamichi Iwai.

1.要約

現在、水質評価は物理化学的、微生物学的な指標の測定に基づいているがこれらは複数の試験を必要とし、高価で時間がかかる。アクアフォトミクスによる水質のモニタリングは水のスペクトルがあらゆる化学的・物理的摂動に敏感であり、水の状態を映し出すということを利用している。

本研究では市販の家庭用水処理システム(浄水器)を用いて様々なろ過処理段階の水をサンプルとし、それらの近赤外スペクトルにアクアフォトミクスの手法を適用した。この手法の有効性は差スペクトル、多変量分類分析、そして水スペクトルパターンをアクアグラムによって視覚化することで示された。解析結果は一貫して、異なるろ過処理を行ったサンプルがそれぞれの特有のスペクトルパターンをもつことを示している。そしてこれらのパターンは水分子ネットワークの状態を特徴付け、それぞれの水処理の識別、処理ごとの浄化効率の追跡、浄水システムの性能モニタリングなどに利用可能である。

2.研究方法

サンプル

本研究で使用する水サンプルは市販の浄水器(Proline Plus t-stage RO system, ESP Water Products, Carollton, TX)をもちいて精製された。図1に模式的に水処理のそれぞれの段階を示す(より詳細な図解は製造者のウェブサイト [22] で確認可能)。浄水器の水処理システムにおいては、水道水(W0)をまず三段階でろ過する(W1~W3)。ここでは、ポリプロピレン製のフィルターで5µm以下のチリやサビなどの浮遊物をこしとり、次に2枚のカーボンフィルターが有機物と塩素を吸着する。これら3枚のフィルターを通った水は逆浸透膜ろ過をされる。不溶固形物や重金属、バクテリア、ウィルスなどの不純物が薄い合成膜フィルムによりこしとられ、W4を生成する。逆浸透のあと、余分な塩類や望ましくない物質を含んだ廃液が機械から排出される(W4x)。浄化された水(W4)はタンクに貯蔵される(W5)。そしてココナッツ殻を用いて水に溶け込んだ気体や臭いが取り除かれる磨き上げの最終工程を経て飲用水(W6)が精製される。

図1 本研究の水サンプル: W0-水道水, W1~3-3段階ろ過後の水, W4-逆浸透ろ過後の水, W4x-廃液, W5-タンク内の貯蔵水, W6-全水処理段階をへた最終精製水

近赤外分光法

水サンプルのスペクトル測定は、光路長1mm、波長範囲900nmから1700nmまで、8nmステップ、透過光モードで実施した。1つのサンプルにつき10回連続で取得した(各連続スペクトルは10の同時加算スペクトルの平均)。実験は、3日間で3回繰り返し、水サンプルは7種類(W0,W1~3, W4,W4x,W5,W6)、都度新たに調製したサンプルを使用した。合計210本のスペクトルを取得した。

データ解析

水のOH伸縮振動の第1倍音を解析するためにスペクトルは1300nmから1600nmまでの波長範囲を使用した。異なるサンプル間のスペクトルの違いを調査するために差スペクトルを計算し、主成分分析とSIMCA法による判別分析を適用した。

ろ過処理過程での、水構造変化の詳細な特徴を調べるため、特定の水による吸収バンド(波長範囲6~12nm)のパターンを分析した。これらのバンドはWAMACS(水マトリックス座標)と呼ばれる。先行研究(Tsenkova et al.)において、さまざまな水分子種をカバーする12の特徴的な水波長範囲が定義されており、水の第一倍音領域の特徴的なスペクトルパターンを表すのに役立っている[7]。WAMACSの変動は水のスペクトルパターン(WASP)を表し、アクアグラムによって視覚化することができる[26]。レーダーチャート(アクアグラム)は異なる水分子構造に関係した12のWAMACSにおける正規化吸光度をサンプルごとに表示する。

3.結論

本研究により、様々なろ過処理段階の水をモニタリングすることへのアクアフォトミクスがもつ有効性が示された。アクアフォトミクスの手法を用いた水の近赤外スペクトル解析は微細でありながら検出可能で一貫性のある差異を示した。このスペクトルの差異は異なる種類のろ過処理を経たことによる水分子ネットワーク構造の変化に関係している。水分子ネットワークに対する物理化学的・微生物学的指標それぞれの変化が積み重なって与える影響を表す特徴付けに水のスペクトルパターンをもちいることができる。

アクアフォトミクス近赤外分光法に基づくリアルタイムのオンラインシステムは、水の構造変化の検出に基づいて水質の変化を通知することで、浄化処理中および使用時の水質を監視するための効率的で実用的なアプローチを提示できる可能性がある。

図2 解析に使用された1300nmから1600nmまでの近赤外(NIR)スペクトル(n=210)。
図3 基本的なスペクトルの違いを表すサンプルの差スペクトル。
表1 SIMCAの種別推定に基づくろ過処理過程の近縁度。
図4 SIMCA分類モデルの識別力。ろ過処理過程の識別に重要な波長を示す。
図5 アクアグラム表示によるろ過処理過程でのスペクトルパターン。
W0:ろ過前の水道水 W1-W3:3段階ろ過の生成水 W4:逆浸透膜ろ過の生成水
W4x:逆浸透膜ろ過の廃液 W5:貯蔵水 W6:磨き上げ後の最終生成水

参考文献

 [7] R. Tsenkova, Aquaphotomics: dynamic spectroscopy of aqueous and biological

systems describes peculiarities of water, J. Near Infrared Spectrosc. 17 (2009)

303–313, https://doi.org/10.1255/jnirs.869.

[22] EPS Water Products, Proline Plus five stage RO system, https://www.

espwaterproducts.com/proline-plus-five-stage-ro-system/, (2019) , Accessed date: 1

September 2019.

[26] R. Tsenkova, Aquaphotomics: water in the biological and aqueous world scrutinized with invisible light, Spectrosc. Eur. 22 (2010) 6–10.